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そう言えば、らき☆すたの二次創作を
ブログで公開するのは久しぶりですね。

これは四コマ記念祭2011で無料配布した
ものです。
夏コミプレビュー的な位置付けです。
まぁ、まだ当選もしていませんけれどね。
今回はPDFデータも公開します。

****************************************************
ぎりぎり、ぎりぎり。

きしむ音がする。

ぎりぎり、ぎりぎり。

最近、つかさにはそんな音が聞こえるようになった。
ふと気がつけば、どこからともなくそんな音が響いてくる。

『なんの音だろう?』

そう思ったときには既に聞こえなくなっていた。

ぎりぎり、ぎりぎり……。

今日もまた聞こえる。
その音が聞こえるとつかさはとても嫌な気分になる。
無性に腹が立つ。イライラする。何もかもをめちゃくちゃにしてやりたくなる。

ころんとローテーブルの上に置いてあったジュースの入ったコップを倒してみる。

「もぉ、つかさ。何やってるのよ!」

姉が慌てて立ち上がり、ティッシュペーパーに手を伸ばす様をつかさはじっと目で追っていた。

「優くん、大丈夫?濡れなかった?」

かがみは机の上に広がったオレンジ色の液体が優一の方へ流れないようにと、
慌ててティッシュペーパーで拭き取っている。

『また、優くんか……』

つかさは取り乱すこともなく、ただそう呟いた。
テーブルからこぼれ落ちた液体がつかさのひざに滴り、
スカートに染みを作っていてもお構いなしだった。

『大丈夫?つかさ?』

少し前ならば、つかさが慌てて取り乱し、空回りしていても姉が手を差し延べてくれていたのに、
今は目をくれようともしない。

「つかさ、塗れてるよ」

こなたがハンカチを手に、つかさのスカートをぽんぽんと叩くように拭いている。

「平気だよ、こなちゃん。……私が悪いんだから」

そう言って、つかさはぽたぽたと落ちてくるオレンジの雫をぼうっと見つめているばかり。

「つかさ、大丈夫?何か変だよ?」

倒れたコップを起こしたこなたが、俯いているつかさの顔を覗き込む。

「ぼーっとしてるからこぼすんでしょ。しっかりしなさい!」

姉から浴びせられる厳しい言葉。
でも、いつものことだからつかさは応えない。

けれども。

「でも、しかたがないですよ。つかさ先輩もわざとじゃないんだから」

優一にそう弁護されると心は穏やかでなくなる。
悲しみとも怒りともわからないような感情が沸き起こってくる。

ぎりぎり、ぎりぎり……。

また嫌な音がつかさの頭に響いてくる。

「つかさ、顔色が悪いよ?着替えた方が良いよ」

心配そうにこなたがつかさを立たせようとする。
つかさも素直にそれにしたがって立つと、
こなたに連れられてかがみの部屋をでた。

『またお姉ちゃんと優一くんは二人きりか……』

つかさは閉まる部屋のドアを見つめて呟いた。

つかさは優一が嫌いだ。



つかさは、かがみと一緒にいる時間が好きだった。
いつも傍らにいて、見守っていてくれる姉、そんなかがみが大好きだった。
かがみと一緒にいる時間が幸せだった。
それが当たり前だと思っていた。

かがみだって、つかさが一緒にいればそれだけで幸せなのだと信じていた。

でも、違った。

優一はかがみに幸せをもたらし、つかさに不幸を与えた。

つかさからかがみを奪った憎い存在、それが優一だった。
だからつかさは優一が嫌いだった。

憎い奴。でもつかさは心の底から憎みきれないでいた。
彼の無垢な笑顔がそうさせていた。

憎いのに憎めない。つかさはそんな自分に苛立つ。

『優一くんなんか、死んでしまえばいいのに』

そんなおぞましい感情も、彼の穏やかな表情を前にすると消えてしまう。

『せめてお姉ちゃんの前からいなくなってくれれば……』

そう思うくらいが関の山だった。

『どうしたらお姉ちゃんの前からいなくなるのかな?』

その答えは簡単だった。

『お姉ちゃんが優一くんのことを嫌いになればいいんだ』

でも、どうやって?

『……どうしよう?』

つかさは考えた。
考えて、一つの結論に達した。



作戦決行日。つかさは優一を家に誘った。

「明日、家で一緒にケーキ作らない?」

「先輩の家でですか?」

優一はいぶかしげに首をかしげた。
ケーキくらい一人でも作れてしまうつかさがそんな誘いをする理由がわからなかったからだ。
愛しいかがみ先輩の妹というだけで、
二人で一緒に遊んだりする程特別親しい間柄でもないのに。

でもだからと言って断る理由もなかった。
愛しいかがみ先輩の妹の誘いであるのだから、
無下に断ることもできないように思えた。

「良いですよ」

それがつかさの罠であるとも知らずに、優一は快諾した。

そう言って優一を家に呼んだものの、つかさはケーキを作るつもりは微塵もなかった。
優一から服を剥ぎ取るのが目的だった。
そのための口実にすぎない。

つかさの手にかかれば、たっぷりの生クリームを爆発させるなんてこと、造作もなかった。
生クリームを絞り出すふりをしながら、
それを盛大に噴射させ優一の頭のてっぺんから足の先まで、
とろりと溶けた乳白色の液体塗れにすることなどたやすい。

「ごめんね、手が滑っちゃって……」

そう言いながら、おろおろするふりをして見せれば誰もわざとだなんて疑いはしない。
つかさなんだからしかたがない、と誰もが信じこむ。

「平気ですよ、気にしないでください」

と優一も疑う様子は微塵もない。

「洗うから服脱いで」

そう言って優一に服を脱がせる。

恥じらい、躊躇い、遠慮する優一にバスタオルを渡してパンツまで奪い取る。
それを全部まとめて洗濯機にぶち込んだ。

「ごめんね。服が乾くまで部屋で待ってて」

言いながら、つかさが通したのは自分の部屋ではなくかがみの部屋。

「だって、私の部屋に男の子を入れるの嫌だもん」

とは言っても、優一も気が気ではなかった。

「じゃあ、私後片付けしてくるから、優一くんはここで待っていて」

と、あこがれのかがみ先輩の部屋に一人取り残されてしまった優一。
つかさに通されたとは言っても、部屋の主の承諾がないことが引っかかっている。
もしもかがみ先輩が知ったらなんというだろうか?
と考えるだけで不安になってくる。

ほぼ全裸の姿で、留守中に部屋に上がり込んでいる。
そんなところにかがみ先輩が帰ってきたら……と、考えるだけで優一は青ざめる。

けれど、そんな焦りも時間とともに和らいでくる。
どんなに待っていてもかがみ先輩は帰ってこない。
これなら帰って来る前に服が乾くかもしれない、という希望が少しずつ膨らんでる。

少し安心したのか、優一はローテーブルの前に静かに腰を降ろした。

いつもならここにいるはずのかがみ先輩の姿がない。
かがみの部屋に一人だけという違和感。
それも全裸。

あまりに非現実的な状況に、現実感が遠のいていく。
これは夢なんじゃないかと錯覚してしまいそうな程。

そんな優一の目に、一冊の日記帳が飛び込んできた。
それは無造作にテーブルの上に置きっぱなしにされていたものだった。

優一はつかさの狙い通り、まんまとそれに手を伸ばしてしまった。

「あ、お姉ちゃん。お帰り~」

と遠くでつかさの声が聞こえる。
優一は心臓が縮み上がるような思いがした。

階段を上り、近づいてくる足音。

優一は慌てて日記帳をテーブルの上に戻し、
日記に熱中するあまりいつの間にか緩んでいたタオルをかけ直した。

慌てて言い訳を考えても何も思いつかない。
ただおろおろと部屋の中を右往左往するばかり。

がちゃりとドアが開いた瞬間、
幻滅したかがみの顔をみるのが恐くて、
優一は思わず目をぎゅっと瞑った。

「びっくりした?」

その声を聞いて、おそるおそる目を開けるとつかさだけが立っていた。

その姿を見てほっとする優一。

けれど、それも一瞬の間だけ。
つかさが手に持っていた写真を見せられた瞬間、表情が凍り付いた。

そこには全裸でにやけながらかがみの日記を読み耽る獣の姿が写っていた。

写真からは手にした帳面がかがみの日記であるかどうかは判別できなかったが、
優一にそんな冷静な判断ができる余裕はなかった。
そしてその日記が、つかさの用意した偽物であるとは優一にわかるはずもなかった。

冷静になって読んでみれば気づけたのかもしれない。
けれど、かがみの部屋で一人全裸という異常な状態に加え、
愛するかがみ先輩の日記を読むという背徳感に心が乱れないはずがなかった。

どうしてそんな写真をつかさが持っているのか。
そんな疑問はこのさい問題にならなかった。
その写真が存在すること事態が問題なのだ。

顔面から血の気が引き硬直している優一の目の前で、
つかさはひらひらと写真を見せつける。

「優一くん、最低」

つかさは姉の部屋のどこかに仕込んだ隠しカメラでの盗撮行為は、
高い高い棚の上にあげて優一を貶む。

優一はその場に崩れ落ちた。

「とりあえず、服を着ようか」

そしてつかさはがさがさとタンスの中を漁る。
かがみの部屋のタンスの中を漁る。

「これに着替えて」

選んだ服を優一の目の前に並べて見せた。

「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

並べられた服は下着まで含めて全てかがみのものなのだから、
優一の反応はもっともだった。
この際、そこになぜブラジャーまで用意されているのか、
そんな些細なことは疑問には思わないようだった。

「これは命令なんだよ?優一くん」

そう言ってつかさは例の写真をぺたりと優一の胸に貼り付ける。
ひらひらと床に枚落ちたそれを優一は慌てて拾い上げると、
小さく丸めて手に握りしめた。

「大丈夫だよ、優一くん。他にもまだまだいっぱいあるから。
でも、お姉ちゃんに見せたらなんて言うかな?」

そこまで言われては、優一に拒否することなどできるはずはなかった。

ただ黙ってそこに並べられた服を身に着けるしかなかった。
ブラジャーはもちろん、パンツ一枚のこすことなく全てだ。
幸い、小柄な優一にはかがみの服がすっぽりと入った。
どちらかといえば若干の余裕があるくらいだ。

「可愛いよ、優一くん」

そんな褒められかたをしても優一は喜べないどころか、
屈辱と羞恥以外のなにものでもない。

「せっかくだから記念写真を撮ろうよ」

言いながらぱしゃりとシャッターを切るつかさ。

「止めてください!」

優一は突き出した手でカメラのレンズを塞ぐようにして叫ぶ。

「へぇ~、お姉ちゃんの部屋で全裸になって日記を読むような獣でも、
恥ずかしいなんて思うことがあるんだぁ」

それを言われては優一は悔しそうに唇を噛みしめて言葉を飲み込むことしかできなかった。

「今日一日私の言うこと聞いてくれたら、お礼にこの写真はあげるよ」

つかさは手にしていた写真を優一の胸にぐいと押し付けた。

「だから、ここに座って」

優一はつかさに肩を押されるままふらふらと後ろに下がり、
かがみのベッドにストンと腰を落とした。

つかさの離した手からひらひらと舞い落ちた写真が優一の膝の上に乗った。
優一はそれが床に落ちる前に慌てて小さく丸めて握りつぶした。

「顔をあげてよ」

優一がつかさの方へと目を向けた瞬間を狙ってシャッターを切る。

「優一くん、可愛いよ」

そう言いながら、またシャッターを切る。

「ベッドに横になってみて」

とつかさが言っても、優一は躊躇っている。
愛しいかがみのベッドに身を横たえることに抵抗を感じているのだろうか。

「お姉ちゃんがいつも眠っているベッドだよ」

つかさは優一に大きく顔を近づけて、赤くなっている耳許でささやく。

「お姉ちゃんの匂いのするベッド。優一くんは嫌いじゃないでしょ?」

肯定も否定もしない優一の胸を少し強く押してやれば、
そのままベッドに倒れた。
つかさはその頭を掴んで枕に顔を埋めさせる。

「どう?優一くんの大好きな匂いがするでしょ?」

優しくささやきつづけている間も、つかさはシャッターを切る手を休めない。

「優一くん、幸せそうだね。お姉ちゃんの服を着て、お姉ちゃんのベッドに包まれて、
お姉ちゃんの匂いを嗅げて、嬉しいでしょ?」

つかさはその最高に幸せそうな表情をぱしゃりとカメラに収める。

「ねぇ、優一くん」

つかさもベッドに腰かけ、密着するくらいに優一に身を寄り添わせる。

「もしもだよ……」

そう躊躇うように言いながら、優一の膝に触れる。
かがみの、純白のワンピースから伸びている膝だ。
それから太股をそっと撫でるようにしながらゆっくりとワンピースの裾をたくし上げる。

「もしも、お姉ちゃんがこんなことをしたら、優一くん嬉しい?」

つかさは裾を戻そうと伸ばした優一の手を捕まえて、
その自らの手でさらに裾をたくし上げるように導く。

「こんな風に、お姉ちゃんが優一くんを誘ってくれたら、嬉しいでしょ?」

そう言いながら、ぱしゃりとまた一枚。
かがみのベッドの上で、彼女のワンピースを身に纏い、
自らの手でその裾をたくし上げ、少女の下着を晒け出している少年のあられもない姿を写真に撮る。

「でも、優一くんがこんな変態だって知ったら、
お姉ちゃんは絶対にそんなことしないと思うけれどね」

「僕は……好きでこんなことをしているんじゃありません!」

「別にいいじゃない。優一くんがお姉ちゃんの部屋で全裸になったり、
お姉ちゃんの服を着て、
お姉ちゃんのベッドでお姉ちゃんに誘惑してもらう妄想をして興奮する変態だったとしても、
私は黙っててあげるから」

「……本当ですか?」

優一は、不安気に上気した顔をつかさに向ける。

「本当だよ。ちゃんと優一くんが私の言うことをなんでも聞いてくれたら、私は何も言わないから」

そう言っている間もつかさは優一の写真を撮りつづける。

「じゃあ、せっかくだから外に行かない?」

「えっ?でも僕の服はまだ乾いてないんじゃあ……」

優一がさっきまで心地よさそうに赤く初めていた顔がたちまち青ざめる。

「私はまだ着替えても良いって言ってないよ?」

「でも……誰かに見られたら……」

「何言ってるの?みんなに見てもらいにいくんでしょ?
可愛い優一くんの姿をみんなに見せてあげるんだよ」

「そ……そんなの無理です!」

「じゃあ、この写真をみんなに見てもらう?
優一くんのこんな姿をみたら学校中のみんな驚くんじゃないかなぁ?」

つかさは今まで撮影していたカメラを振って見せる。

「優一くんは、どっちが良い?」

「先輩は……先輩はどうしてそんな酷いことをするんですか?」

そう言ってつかさを睨み付けるのが優一の精一杯の反抗だった。

「どうして?私が優一くんのこと嫌いだからに決まってるでしょ?」

「じゃあ、どうして僕のことがそんなに嫌いなんですか……?」

「お姉ちゃんが好きになった人だから、かな。
お姉ちゃんが優一くんのことを嫌いになったら、私は優一くんのことが好きになれると思うよ」

そう言ってつかさは微笑む。

「さぁ、明るいうちにみんなに見てもらいに行こうよ」

つかさは嬉しそうに優一の手を引き、ベッドから起き上がらせる。
もたもたしている優一を引っ張って、ずんずんと外に連れ出す。
つかさはとても楽しみだった。
これから憎くて憎くてしかたのなかった優一が、不幸に見舞われるのだから。
ひょっとしたら、少女よりも可愛らしいその顔が涙に濡れ苦悶に歪むかもしれないと思うと、
つかさの胸は楽しげにはずむ。



ぎりぎり、ぎりぎり……。

つかさの頭にまた嫌な音が響く。

つかさは不機嫌だった。
優一を辱めてすがすがしい気持ちに浸るつもりだったのに、
とても不愉快だった。

道を歩けばたちまち注目の的となった。

道行く人全てがその足を止め、振り返り、その姿が見えなくなるまでのしばしの間、
目を奪われる。
つい今し方天から舞い降りたばかりの天使のように清純で、美しく、そして可憐な形をしている。
男も女も、老いも若きもまるで奇跡を目の当たりにしているかのように、
感動の溜息を漏らす。

つかさは未だ嘗て一度もそんな視線を向けられたことなどない。
それなのに、つかさの後ろにいる少年は、男の癖につかさよりもきれいだった。
女装しているだけだというのに、本当の女の子よりも女の子らしい。

それに気づいてしまったから、つかさは不機嫌になっていた。
優一を辱めるつもりが、一緒に並んで歩いていてはまるで優一の引き立て役だ。

もちろん、当の本人はそんな事に気づいているはずもなかった。
周囲の視線は公衆で女装しているものを見る好奇と侮蔑が込められたものだと思い込んでいた。
恥ずかしさのあまり顔を伏せ、つかさの影に隠れ、
つかさに引っ張られている手をぎゅっと握り返し、怯えるように歩いている。

優一の短めの髪も、黒くて長いかつらで隠されている。
もともと男らしくないほど弱くて細い体の線をしているから、
少女の服も違和感なく着られる。

「あの……やっぱり、僕……変じゃないですか?さっきからみんな見てるし……」

優一は小声で呟いた。

「何言ってるの?優一くん。とっても気持ち悪いよ?
男の子が女装して街中を歩いているなんて、頭おかしいんじゃないの?
って思ってみんな見ているんだよ。
私が可愛いっておだてただけでのこのこ外に出てくるなんてすごく馬鹿だよね?
自分の姿を鏡で見てみればいいのに。
哀れな変態さんが映っているよ」

つかさは苛立たしげに言葉を吐き羞恥心を煽る。
優一が恥しがってくれなければなんの意地悪にもならないのだから。

それに、認めたくなかった。優一の方が可愛いなんて、絶対に認めたくはなかった。

ぎりぎり、ぎりぎり。

また不快な音が聞こえてくる。



「あの……先輩。僕……トイレに行きたいです……」

つかさの後ろに隠れるように顔を伏せとぼとぼと着いて来ていた優一が、
不意につかさに耳打ちをした。

つかさが振り返り、その顔を見れば苦しそうに顔を歪めていた。

「お腹、痛くなってきたの?」

つかさは、嬉しそうに頬を緩めながらそう問うた。

「はい……」

苦しそうに声を吐き出す優一。

「我慢、できない?」

「少しだけなら……大丈夫だと思います」

つかさは優一の手を取ると、指を絡めるようにしてぎゅっと強く握った。

「あ、……あの、先輩……?」

予想外のつかさの行動に優一は驚いた。
公衆の面前で、突然手を繋がれて恥ずかしくもあった。
そして何よりも、その理由がわからなかった。
ついさっきまで自分の事が嫌いだといっていたのに、なぜ?
だから、手を握り返すことはしなかったけれど、拒むこともなかった。
その手に悪意が込められているなどとは微塵も疑わずに。

「トイレ、行きたいの?」

そう言ってつかさに顔を覗き込まれると、
優一は赤く顔を染めて目を逸す。

優一は一度、こくりと頷いた。

「そっか。でも、ダメだよ。まだ行かせてあげない」

一瞬、優一は耳を疑った。

「どうして……ですか?」

すがるような目で訳を問う。

「優一くんの苦しんでいる姿をもっと見たいからだよ」

「で、でも、僕、もう……」

そう言って言葉をつまらせる優一。
強烈な腹痛と便意に見舞われたのか、その場に蹲ろうとする。

つかさは手を強く引っ張って無理矢理立ち上がらせた。

「出ちゃいそう?」

優一は返事もせず、自由なもう一方の手でお腹を抑え、
目をぎゅっと閉じて苦痛が去るのをひたすらに待っていた。

つかさにもその様子は手に取るように伝わった。
優一が苦しみに合わせて、無意識のうちにつかさの手を強く握りしめるからだ。

「こんなに人がいっぱいいるところで出しちゃうなんて、最低だよね」

そう言いながらつかさは笑っていた。

「少し歩こうよ」

つかさは優一の手を引っ張って歩きだした。

優一が辛そうに歩みを緩めると、鞭打つように手を引っ張りさらにペースをあげる。

優一の顔は青ざめ、体中にじっとりと脂汗を滲ませている。
額に滲みでた汗をほほに滴らせながらも、優一はまだ持ちこたえていた。

「優一くんはいつまで我慢できるのかな?」

つかさは優一の苦しんでいる顔を満足げに眺めながら言った。

「お姉ちゃんが良く効くって言ってたんだよ。
優一くんのジュースに入れてあげた、下剤」

「げ……下剤?」

「うん。だから我慢できなくなったら言ってね。
みんなの見ている前で出しちゃうところ、写真に撮ってあげるから」

言いながら、つかさはずんずんと優一の手を引く。
さっきから優一が強く手を握り返してくる間隔が短くなっている。
きっと、もうすぐ限界なんだろうと察して、優一を執行の地へと連れていく。

そこは駅前の広場。
駅へ向かう人、出てくる人、バスを待つ人の列、
人の流れが決して途切れない場所。

あたりを見回せばビラを配っている人、
歌を歌っ手いる人、大同芸を披露している人達までいる。
つかさはそこで優一に未曽有のパフォーマンスを披露させることにした。

つかさが歩みを止めると同時に、優一は崩れるように両膝を地面につけて蹲った。

「もういいよ」

優一の手を離して、優一から距離をとろうとしたときだった。
足首を捕まれてつかさは驚いて振り向いた。
下に目を向けると地にひれ伏したままの姿で、
目から涙を溢れさせてつかさを見上げていた。

「トイレに……行かせてください。なんでも、言うこと……聞くから……」

嗚咽は漏らしながらも苦痛を堪えて、つかさの足に泣き縋った。

公衆の面前でその行為は大いに人目を引いた。
離れたところから優一が精神的に崩壊する様を嘲る企みであったが、
思わぬ反撃にあった。
周囲からはどちらかというと優一よりもつかさの方へ好奇の視線が向けられている。

このまま優一が限界を迎えれば、つかさとて無関係を装う事はできないように思われた。

つかさの足を強く握りしめる優一の手から、
限界が近いことを覚り、焦るつかさ。
そうしている間にも人の壁が遠巻きに形成されていく。

やむを得ず、つかさは優一を立たせた。
そして、近くにあった喫茶店へと駆け込んだのだった。



トイレから出てきた優一は、つかさの座っていたテーブルの向かいに腰を降ろした。
既にそこには二人分のオレンジジュースとイチゴの乗ったショートケーキが用意されていた。

「優一くんも食べるでしょ?」

そう言って微笑んだつかさの顔に、優一は恐怖を覚えた。

またこれにも下剤が入っているかもしれない、
そう思った優一は首を横に振るしかなかった。

「食べるでしょ?」

表情を崩さずにもう一度繰り返したつかさ。
けれど、その目は決して笑っていなかった。

観念した優一はおそるおそるフォークを手に持った。

優一がフォークで小さく切り分けけたケーキを口に運び、咀嚼し、
飲み込む様をつかさは満足そうに見つめていた。

優一はそれだけでまたお腹が痛くなってくる気がした。

「優一くんは猫と犬、どっちが好き?」

問われて、優一は少し悩む。

「どちらかといえば猫が好きです」

それを聞いてつかさはにやりとほくそ笑んだ。

「じゃあ、にゃあって鳴いてみて」

「ど、どうしてそんなことを……」

優一の顔が恐怖でひきつる。
つかさの邪悪な笑顔から、何かを察知したのだろう。

「早く鳴いて見せてよ、ダメ猫」

そう言って、つかさは優一のすねを軽く蹴飛ばす。

「に……にゃぁ……」

優一はすねの痛みを堪えながらぎゅっと目を閉じて、小さな声を辛うじてふりしぼった。

「良く聞こえなかったよ?
ちゃんと猫みたいに地面に這いつくばって私の足に頬ずりをしながら鳴いて見せて」

優一は無言でうなだれたまま何も言わなかった。

「ここだったら誰も見ていないから平気でしょ?それとももっと人の多いところでやりたい?」

つかさがそう言うと、優一はゆっくりとテーブルの下へと潜りこんだ。

人通りの多い駅前の広場に面したテラス席。
けれど誰もそこでお茶している人のことを気に止めることなく、
足早に去っていく。

ここなら誰も見ていないはず、と優一は信じたかった。
そしてつかさの足に両手を添え、ふくらはぎにそっと頬を触れさせる。
それから、回りに聞こえないような声でもう一度鳴いてみせた。

不意に、優一は顔面を蹴飛ばされた。
つかさの靴の裏を突然顔にぶつけられた。

「汚いのら猫がいる。お腹減ったの?何か食べたいの?」

優一は涙を湛えた目で必死につかさを睨みあげる。
それが精一杯の反抗だった。

「ふ~ん……」

とつかさは邪悪な笑みを浮かべる。

「そっか。お腹減ってるんだ。じゃあこれを食べるといいよ」

つかさは足元にイチゴを落としてよこした。
それはさっきまで優一が食べていたケーキの上に乗っていたイチゴだった。

「食べないの?お腹減ってるんでしょ?」

優一は躊躇いながらも落ちたイチゴに手を伸ばそうとした。

「痛っ!」

イチゴを掴む前に優一の手はつかさに踏み潰された。

「猫は手でイチゴを掴んだりしないよ?」

優一がもう一度つかさを睨みあげた拍子に目から雫がこぼれ落ち、頬を駆け抜けた。

「反抗的な目。お仕置きをしなきゃ。そっちの手も出して」

言われるまま、優一はもう一方の手を差し出す。
その手もつかさは踏みつけた。

「さ、残さず全部食べるんだよ」

優一はゆっくりと顔を地面に近づける。
唇が床には触れないようにしながら、イチゴだけを加えて口に入れる。
イチゴのへたを吐き出そうとしたら、つかさが踏みつける力を強くした。
だから、苦いのを我慢して残さず全部平らげた。

「汚~い。本当に食べちゃったんだ」

言いながらまたぱしゃぱしゃとシャッターを切りつづけるつかさ。
そのカメラから顔を背けることが優一に唯一許された抵抗だった。

「泣いているの?」

「泣いてなんかないです」

とは言ったものの、その声は嗚咽にまみれていた。

「猫はにゃあって泣くんだよ?」

言葉と同時につかさの爪先が、優一のお腹にめりこむ。

「……にゃあ……」

優一は苦しいのを堪えて必死にそう漏らした。



「優一くんはまだ猫としての自覚がたりないんだね」

喫茶店を出て、優一の前を歩いているつかさがそんなことを口にしても、
優一は何も反応しなかった。

「こういうのは形から入るといいと思うんだよ」

つかさが立ち止まったのはとある雑居ビルの狭い階段の前。
見上げてみると、そこはコスプレ衣装を扱う店が入居していた。

「十分だけ待っていてあげるから耳と尻尾を買ってきて。一分でも遅れたらお仕置きだよ?」

そう言って微笑んだつかさの目が冗談ではないことを悟ると、優一は階段を駆け登った。
ネコミミと尻尾、それはメジャーなアイテムらしく、
店員に言えばすぐに袋に包んでくれた。
それを受け取ると急いで階段を駆け降りる。

「買ってきました!」

息を切らせた優一がつかさに袋を見せる。

「優一くんって、そんなに馬鹿で恥ずかしくて死にたくならないの?」

優一にはそう言ったつかさの言葉の意味が理解できなかった。

「でも、僕はちゃんと先輩の言いつけを守りましたよ……?」

おそるおそる顔を覗き込む優一。

「じゃあ、それを付けて」

つかさは優一が手にしている袋を指さした。

「……今、ここで、ですか?」

その問に対して、つかさは肯定も否定もせず、ただ袋を指さしつづけていた。

優一は観念してごそごそと袋を開けた。

「優一くん。恥ずかしいから、私から五メートルはなれて歩いてね」

つかさに背中を向け、とぼとぼと離れていく優一を見て、つかさは名案を思いついた。
それを実現するべく、別の店へと向かった。

店の前に着くとつかさは五メートル離れたところに電話をかけた。

「もう一つ買ってきてほしいものがあるんだけど」

そんな口調だったけれど、お願いではない。命令だった。

「首輪とリードを買ってきて」

つかさが指さしたのはペットショップだった。

「ちゃんと試着させてもらって買うんだよ?僕に似合う首輪をくださいって」

その言葉を聞いてしばらく優一は言葉を失ったらしい。
電話はしばらく無言だった。

「それって……どういうことですか?」

「決まっているでしょ?馬鹿な猫の首に着けるんだよ」

それからまた沈黙。優一は電話を握ったまま立ち尽くしていた。

「どうしたの?馬鹿な猫はご主人様の命令になんでも素直に従わないと生きていけないんだよ?
優一くん、明日から学校に行けなくなっちゃうよ?」

ゆらり、ゆらりと優一はゆっくりと歩みを進めてペットショップへと近づく。

「ちゃんと僕が使うんだって言って買うんだよ?ちゃんと見ていてあげるからね」

つかさはそう優一に耳打ちをすると、他人を装ってペットショップへと入った。

そして一部始終を見ていた。
優一が自らの首に首輪を巻きつける様を。
呆気にとられた店員がその様子を見つめている様を。
そして離れたところからこそこそと奇怪なものを見つめる一般客の姿を。

「……似合いますか?」

と優一が店員に問うても、店員は無言だった。

優一にも学習能力があるらしく、次は首輪をしたまま店の外へと出てきた。

「偉いね、優一くん。とても馬鹿みたいだったよ。
これでどこから見ても頭のおかしな人だよ」

言いながらつかさはくすくすと笑う。

「それで、次は何をしたらいいんですか?」

意外にも、電話の向こうから次の命令を求めてきた。
ただし、明日にも死んでしまいそうな程生気を失った声で。

「じゃあ、最後に良いところに連れていってあげる」

『最後』と言う言葉に優一は若干の希望を感じたようだった。

「とりあえず電車に乗るから切符を買ってきて。猫一枚ね」

優一が自動券売機の前に立とうとするのをつかさが嗜めた。

「そんなところじゃ猫の切符なんて売っていないでしょ?」

「じゃあ、どうしたらいいんですか?」

「駅員さんに聞けばいいと思うよ。猫の切符が欲しいにゃあって」

つかさは言葉の途中から笑いを堪えていた。

優一は素直にその言葉にしたがった。
すると親切な駅員は窓口から出てきて券売機の前まで付き添い、切符を買ってくれた。

それからバスに乗って向かったのは、見慣れた場所だった。
そこは陵桜学園高等部。

そこでつかさから最後の指令が下った。

「さっき買ったリードを自分の首輪に着けて、そこのバスの停留所の看板に括り付けて」

「先輩……こんなの酷すぎます……約束が違います」

今にも泣きだしそうな声。

「私、言うことを聞いてくれたらこの写真は誰にも見せないって言っただけだよ?
もしも嫌だって言うなら、これから優一くんの素敵な写真をみんなに配ってくるよ」

優一は観念して自らを停留所の看板に繋いだ。

今日は休日だからいつもとは比べものにならないくらい生徒の数は少ない。
それでも時おり通りかかる生徒たちが、
奇怪なものを見るように遠巻きに眺めながら歩きさっていく。

優一の体に痛い程の視線が刺さる。
バスを待つ生徒たちが停留処にやっては来るけれど、
優一を避けるようにしていつもとは逆の方向に列が延びる。

優一の方をちらちらと見ながら皆がこそこそとささやいていた。

学校の前で、とびきりの美少女が猫の格好をして首輪を付け、
リードで繋がれていては気にならないはずがない。
けれども、それが優一であると気づくものは誰一人としていなかった。

そこまで耐えていた優一だけれど、突然その場に崩れ落ちた。

どうしたのだろうかと気になったつかさ。
けれども優一の目の前に呆然と立ち尽くす少女の姿を目にしてすぐに理解できた。

「それ……私の服……」

言葉を失っていた少女が最初に口した言葉。

瞬間、優一は顔から出るもの全部が吹き出し、地面に伏せ、声をあげて泣きだしてしまった。
きっと絶望したのだろう。

これで、これで姉の心は優一から離れていくものとつかさは確信した。
また元のように姉の目は自分に向けられるものだと思っていた。

けれども、少女は、つかさの姉は、かがみは優一に歩み寄ると傍らに跪いた。
そしてその首の縛めを取り払うと、手を差し延べて優一を立ち上がらせた。

「一緒に帰ろう」

そう言って、手を引きバスに乗り込んだ。
二人を乗せたバスが走り去っていくのをつかさは睨んでいた。

ぎりぎり、ぎりぎり……。

歯を噛みしめて恨めしそうな形相でつかさは小さくなっていくバスを睨んでいた。

***************************************************
あとがき

この本は、既刊の「かがみ様への恋文」シリーズの
サイドストーリ的位置付けです。
いきなりこの本を手に取られた方には、
オリジナルキャラクターの存在や、
キャラクターの関係などがわからなかったかと思います。
宣伝するわけではありませんが、そこは本編を見てください。

さて、この話を書こうと思った発端は、
四一朗さんに描いていただいたつかさがあまりに可愛くて、
可愛くて、つかさを前面に押し出した話を書いてみたくなったからです。
でも、つかさってちょっとキャラ薄いですよね?
そんなことないよ!と言われたこともありますが、
私の中ではとても薄いです。
親愛なるかがみ様の「影」にすぎないといっても良いくらい、薄いです。
つかさはもっと欲望を露にしないといけないと思います。
そうしたら、こんな話になりました。

今回は夏コミプレビュー版という位置付けであり、話はこれで完結ではありません。
夏コミには続きを書いて、いつものように販売したいと思います。
プレビュー版ではつかさが優一をいじめるシーンばかりでしたが……
それは今回限りです、たぶん。
次からは優一が苛められるシーンが減るはずです、たぶん、きっと。
だから、もしも、そう言ったものを期待して本を手に取ってもらうと、
がっかりするかもしれません。
まぁ、続きの話はまだ具体的には考えていないのでわかりませんが…。
そもそも、夏コミに受かるかどうかもわかりませんけれどね。
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2011.03.27 Sun l らき☆すた l COM(0) TB(0) l top ▲
らき☆すたの二次創作、
かがみ様への恋文シリーズの11話目です。
今回のはちょっといまいちだなぁ~
と思っています。
でも今のところ良くできる気がしないので
このまま公開です。
私的にはおちがダメだと思っています。
終わり良ければ全て良といいますが、
この終わりでは台無しではないかと。

ちなみに、調教だとか、
足を舐めろだとかそんなキーワードが入っているのは、
まぁあまり気にしないでください。
最近の、マイブームってやつですから。

****************************************************
夏の終わりに海で行われる花火。
かがみはこなたに誘われてそれに来ていた。
つかさも一緒だ。もちろん、かがみの彼氏である優一も。

本来であれば今日は海に行く予定になっていた。
花火ではなく、海水浴に。
しかしかがみの一身上の都合により海水浴から花火へと予定が変更された。

「ゆう君はかがみの水着姿を密かに楽しみにしてたのに、
がっかりするんじゃないの?」

とこなたが冷やかした。

「う、うるさいわね!関係ないでしょ!」

こなただってかがみが海水浴を止めた理由はわかっていたのだ。
かがみは決して口にしないけれど、わかっていたのだ。

また、失敗したんだな、と。
己の欲望に負けたんだな、と。

このまま水着姿を見せてしまってはがっかりするどころか、
嫌われるんじゃないかとかがみは恐れたのかもしれない。

だから、今夜はみんなで浴衣を着て花火見物になった。
優一も、からころと下駄を涼しげに鳴らしながら、浴衣を着ている。

かがみはご機嫌だった。

「かがみ先輩、とってもきれいです」

と開口一番、優一がその純粋な目をきらきらと輝かせて言ったせいだ。

よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるものだと、
聞いているかがみの方が赤くなる。

でも、嬉しい。耳がくすぐったいような、恥ずかしいような、でも心地よい響。
かがみの頬はポカポカと火照っていて、けれどそれが気持ちいい。



かがみとこなたとつかさが横に並んで楽しそうに喋りながら歩いている。
お喋りに夢中になっている少女たちに忘れられて、
その後ろをぽつりと、優一がついて歩く。
まるで優一が邪魔者のように一人浮いている。

それでも優一が幸せそうに付いていくのは、
ふわふわと揺れるかがみの艶やかな二つのツインテールに視線を奪われ、
ときどきちらりと見えるかがみの横顔にドキドキと胸をときめかせているからに他ならない。

「ゆう君、こっちだよ」

ときどき思い出したように振り向いてはかけられる、
たったそれだけの言葉にも「はい」と嬉しそうに従う。

「優一くんって素直だよね」

かがみが、「あのチョコレートバナナおいしそうよね」とつぶやいたから、
「買ってきます」と走り出した優一。
その遠ざかる背中を見つめてつかさがつぶやいたのだった。

「素直っていうかさ、従順だよね」

こなたが言った。

「ひょっとしてさぁ……」

こなたがとびきり嫌らしく顔を歪めてかがみの顔を見つめる。

「な、何よ……」

こなたのその顔を見れば、ろくなことを言い出さないのは明らかだった。
何を考えているのかと、その顔を見るとかがみは不安になる。

「かがみ、ゆう君を調教してるの?」

「ちょっ……」

想像を上回るこなたの意外な言葉に、かがみは声をつまらせた。

「調教って何?」

つかさが平和な顔でこなたに問う。

「なんでも命令を素直に聞くように躾けることだよ。
かがみの命令だったらなんでも。どんなことでも」

「へぇ~」

とつかさは感心した様に声を漏らす。

「お姉ちゃん、すごいね」

「ばか!そんなわけないでしょ!」

「ほんとうに~?」

真っ赤になっているかがみの顔を、疑るようにこなたが覗き込む。

「だってゆう君、あんなに従順なのに、本当に何もしてないの?」

「してないわよ!」

「足を舐めなさい、って言ったら、舐めちゃうんじゃないのかなぁ?」

「ば、ば馬鹿じゃないの!そんなことするわけないでしょ!」

かがみは耳まで真っ赤にして力いっぱい叫んだ。
回りの行き交う人たちも足を止め、露店のおじさんまでも思わず手を止めて振り向いてしまう程に。

「じゃあ、試してみる?」

両手に四つのチョコレートバナナを手にして、
かがみの下へと駆け寄ってくる優一にちらりと目を向けて、こなたが言った。

嬉しそうに駆け寄ってくるその姿は、
まるでご主人様に呼ばれて盛んに尻尾を振る犬の様。

「あんた、変なゲームのやりすぎよ!」

実際、かがみには優一を調教する知識は持ち合わせていない。
そんなことはこなただってわかっている。

わかっていて、言うのだ。

「でも、優一くんってマゾっぽいよねぇ」

「し、知らないわよ!」

「恐いかがみにだったら、喜んで調教されるんじゃないのかなぁ?」

こなたはかがみの耳に顔を近づけて、ささやくように言った。

つられて、思わずかがみも一瞬その光景を思い浮かべては、慌てて振り払う。

「あぁ……。それとも実は調教されたいのはかがみの方なのかなぁ」

調教をされる……、それはどんなものなのだろうかとかがみは一瞬考えてしまった。

はっと我に返るとにやにやとしたこなたの顔がすぐ目の前にある。

「今、想像してたの?」

「そっそんなわけないでしょ!」

叫んで、こなたから顔を逸す。

「あの……どうしたんですか?」

戻ってきた優一が、騒いでいるかがみの顔を心配そうに覗き込む。

不意に優一の顔が視界一杯に広がって、思わずかがみは恥ずかしくなってしまった。
こなたが調教、調教っていうせいだ。

「なんでもないわよ」

ごまかすように優一が手にしていたチョコレートバナナを奪い取る。

「まぞって、何?」

話が途切れた隙を見計らってつかさがつぶやいた。

一瞬かがみもこなたも凍り付いた。
どうしてこんなタイミングで聞くかなぁこの子は、と内心つぶやいていた。

優一もさぞかし困った顔をしていることだろうと思いきや、そうでもなかった。

「それって何ですか?」

そんな言葉を口にしていた。

「えっと……苛められっこのことかなぁ?」

とこなたが説明した。

「ふ~ん……。じゃあ優一くんって苛められっこなの?」

とつかさが優一に問う。

「え?……そんなことないと思いますけど……」

天然な二人の会話は気まずい空気もぶち壊す。



予想以上にと言うか、見通しが甘かっただけと言うか、
人が多すぎて海が見えない。
上空に高く上がる花火はそれでも見えるかもしれないけれど、
海面近くに咲く花火を見るのは絶望的だった。

「あそこだったら人がいないみたいだよ」

とこなたが指をさしたのは離れたところに見える崖の上。

「先に行ってて」

とかがみは一人離れていった。
きっとトイレだろう。あんな人気のないところにはトイレなんてなさそうだから、
今のうちに済ませておいた方が良い。

つかさとこなたは言われるまま二人で先に崖の上をめざした。
邪魔者は退散しようかと気を利かせたのかもしれない。

でも優一は待った。
わずかな時間とはいえ、せっかくかがみと二人になれるチャンスがめぐってきたのだから。

そしてかがみと優一は先に行った二人の後を追う。
沈み込むような柔かい砂浜の上を下駄で歩いて。

今日の優一の足はかがみよりも遅かった。
かがみは普通に歩いているだけなのに、優一がそれについてこない。
いつもはそんなことないのに。

「どうしたの?早くしないと始まっちゃうわよ」

優一の少し前でかがみが足を止め振り返って呼んでいる。

「ごめんなさい」

言いながら足を早める優一。

「大丈夫?」

かがみがそう聞いたのは、いつもの優一の笑顔がひきつっていたことに気づいたからだ。

「何でもないですよ」

その無理して作った笑顔も歩きだせばすぐに歪む。

「何を隠してるのよ?」

もう一度足を止めたかがみは、今度は少しきつい口調で聞いた。

「大丈夫です。何でもないですから」

隠し事をされるのは好きじゃない。
小さな悩みの一つも話してくれないのは水臭い。
と言うよりも腹立たしい。

「何でもないって顔じゃないでしょ!言いなさい!」

きつく怒られて、優一は渋々と口を割った。
何のことはない。

「足が痛くて……」

かがみは優一の足元にしゃがみこんで見てみると、
足の親指と人差指の間が鼻緒に擦られて赤くなっていて、痛々しい。

「どうして早く言わないのよ?」

しゃがんだままの姿勢でかがみは優一を睨みあげる。

「ごめんなさい」

そんな神妙な反応をされるとかがみはそれ以上怒れなくなる。

「脱ぎなさい」

「でも……」

「でもじゃない、早く脱ぎなさい。砂の上だから平気よ」

そう言ってかがみは自分の下駄を脱ぎ、暗い砂浜の上を数保歩いて振り返る。

「裸足だと気持ちいいよ」

かがみがそこまでするのなら、優一もそうしない理由はない。
優一も下駄を脱いで手に持った。

「でも、裸足であそこまで行けないですよ?」

と崖の上を指さす。
そこへ行くには林の中を登っていかなければならないように見える。
そんなところ、裸足で歩いて突き出た小枝でも踏んだらと想像するだけで足の裏が痛くなる。

「別にいいじゃない、この辺から見れば」

かがみは人混みの最後尾に立ち、優一はそれに続いて隣に立った。

「でもこんな後ろからじゃ人が多くて……」

優一は申し訳なさそうに言う。

「良いじゃない。それも風流ってものじゃないの」

やっぱり花火は見えない。
海面の花火が見えないのはもちろん、
上空に打ち上げられるやつだって前の人の頭に遮られ欠けて見える。

「ごめんなさい。僕のせいで……」

そう言ってまた俯いている優一の顎にかがみは手を添えた。
それから、首を上向かせる。

「きれいよね、花火」

かがみはそう言ったけれど、優一の目にはそんなの映っていなかった。
花火よりもきれいなものがある。
夜空に舞う色とりどりの火の粉に照らし出される、
少女の横顔こそ綺麗だと優一は思った。

「かがみ先輩の方が、綺麗です」

優一は偽らざる本音を素直に口にしたというのに、
かがみは優一の顔をひっぱたいた。

「何言ってるのよ!ば、馬鹿じゃないの……」

そう言ってまた顔を夜空に戻した少女の横顔はほんのり赤くなっていて、
やっぱり綺麗だった。



「二人でこっそりいなくなって何やってたの?」

崖から戻ってきて合流したこなたは開口一番にかがみをからかった。

かがみももう慣れたのか、それくらいの事じゃ動じなかった。

「なんだって良いでしょ」

と軽くあしらう。

花火が終わって、帰ろうと駅に向かっているとき、優一はそっとこなたの浴衣の袖を引いた。

「先輩……ちょっといいですか」

こなたが振り向くと、優一は思いつめた表情をしていた。

「どしたの?」

「あの……お願いしたいことが……」

優一はもじもじと言い難そうにしている。

「ねぇ、かが」

こなたが前を歩く柊姉妹を呼び止めようとするのを、
優一が腕を強く引っ張って止めさせた。

「かがみ先輩には、言わないでください」

露店の薄灯りに照らし出された優一の顔が心なしか赤い。

だから、こなたは少し戸惑った。
かがみに言えない話ってなんだろう?
そう思いながらも、優一に手を引かれるまま駅に向かう人の流れを離れて露店の裏側に回った。

露店商たちの大きなワンボックスカーが建ち並ぶように止まっているだけで、
人影なんてほとんどない。
人混みの喧騒が遠くに聞こえる静かな場所。

「せんぱい……」

優一は静かな声をだし、その潤んだ大きな瞳でこなたの目をまっすぐに見つめる。

如何に恋愛シミュレーションの達人、こなたといえど思わずどきりと心を揺さぶられる目。
きっと、その目は多くの女の子をあるいは女性を惑わすに違いない。

「な、何かな?」

思わずこなたは一歩あとじさる。
こなただってわかっているのだ。友達の彼氏に手をだすのはダメ、絶対。

わかっていても、こなたには免疫力が無い。
頭ではわかっていても、勝手に胸が高鳴ってしまう。
迫られたら拒みきる自信もなかった。
だから逃げるしかない。

しかし、実際のところはこなたが期待しているような話では全く無かった。

「お金、貸してください……。帰りの電車代が足りなくて……」

そう言って優一は俯いた。

「なんだ、そんなことか……」

とこなたは自分でもがっかりしていたことに気づいた。

「でもそんなことならかがみに言えばいいのに」

「だから、かがみ先輩には知られたくないんです!」

優一の目は真剣だった。

そんなことくらいでかがみはどうとも思わない事を、こなたはわかっていた。
つかさという天然の妹に慣れているんだから、今さらそんなことくらいで。

でも優一の目は真剣なのだ。
あまりに真剣だから、こなたはからかってみたくなった。

「それは大変だねぇ。
そんなことかがみに知られちゃったら、きっとゆう君嫌われちゃうよ。
かがみは忘れ物なんてしないから、ゆう君みたいな抜けた人間は大嫌いなんだよ。
だから、捨てられちゃうねぇ」

そう言うと優一の顔は面白いように青ざめる。

「先輩……だから、」

「良いよ。ゆう君がどうしてもっていうなら貸してあげないこともないんだけど……」

とこなたはもったいぶって見せる。

「私の言うこと、なんでも聞くよね?」

優一は慌てて、大きく首を縦に二度振った。

「んふ」

とこなたはにやけた顔から笑いを漏らした。

「じゃあ、舐めて。私の足」

言いながらこなたは下駄を脱ぎ、右足を少し持ち上げて前に突き出した。

その右足を優一は黙って見つめていた。
深刻に悩んでいるのだろう。足を舐めるか、かがみに嫌われるか。
こなたにからかわれているだけとも知らずに。

そんな苦悩している優一を見てこなたは心の中でにやけていた。
この後、どんな反応をしてくれるのかと楽しみにしていた。

不意に優一はその場に座り込んだ。
ぺたりとお尻を地面に着けて、顔を上げてこなたを見上げる。

冗談のつもりだったのに、とこなたは戸惑った。
そんなこなたの目を優一は上目使いで見つめている。

「舐めたら、貸してくれるんですよね?
絶対にかがみ先輩には秘密にしてくださいね」

こなたは「冗談だよ」と言う変わりに、一つ首を縦に振ってしまった。
それはこなたを魅了してしまう程に優一が綺麗だったからかもしれない。
女の子のようにぺたりとお尻を着けて座り込み
怯えた瞳でこなたを見上げるその様は、
まるでこなたがゲームで慣れ親しんだ愛らしい少女達のよう。
優一が男であるということを一瞬忘れてしまう程であった。

優一は両手で包み込むようにそっとこなたの両足を掴んだ。
そして静かに顔を近づける。
近づける。
鼻から漏れる静かな吐息がこなたの足の甲をくすぐるくらいに近づく。

これは夢?
こなたはそう思った。
学校のどこかにはファンクラブがあっても不思議ではないような美少年が、
静かに目を閉じてこなたの足を舐めようとしている。
顔色一つ変えずに、まるで愛しいものに口づけをするかのように。

足、臭くないかな?と急にこなたは不安になった。
決して綺麗な足ではないはず。
砂浜を歩いて巻き上げた砂が少し湿り気を帯びた足にうっすらと着いている。
それなのに優一は踏ん切りが付いたのか、
もはや躊躇う様子など見せずにその両手は優しくこなたの右足を包んでいる。

こなたは生まれて初めて不思議な感覚を覚えた。
優一の両手にそっと包み込まれた足がじんじんと気持ちいい。
舐められたらもっと気持ちいいのかもしれない。
幸せになれるかもしれない、とこなたはいつしか夢中になっていた。

「何やってるのよ!」

空気がびりびりと震える程のその声に驚き、こなたはバランスを崩して尻餅を付いた。

打った腰をさすりつつ、声の下方を見上げてみれば、
かがみが鬼のような形相でこなたを見下ろしていた。

「こんなところで何してるの?」

言いながら、かがみは下駄の歯でこなたの手を遠慮無く踏みつける。
こなたの口から悲鳴が漏れる程。

「かがみ先輩、待ってください!泉先輩は悪くないんです!僕が悪いんです!」

と優一がこなたを庇う。
かがみはそれが余計に腹立たしかった。

けれど、事情を聞いてみれば怒りもすっかりと収まって、
ただ呆れるばかりだった。

「どうして始めから私に言わないのよ?」

ときつい口調でかがみが睨みつけると、優一はうなだれるばかり。

「ごめんなさい……」

「そんなことで……きっ、嫌いになったりするわけないでしょ!」
2010.08.01 Sun l らき☆すた l COM(0) TB(0) l top ▲
らき☆すたの話はそれなりのペースで書けているのですが、
けいおん!の方が捗っていません。
このままだと7月のイベントには間に合わなさそうな気が…。
そもそも書く気が起こらなかったり……。

****************************************************

「あ。出ちゃった……」

優一の情けない声と共にかがみの顔に雫が滴った。
指で拭って見てみればそれは鮮血だった。
どこから降ってきたのかと思えば、優一の両方の鼻の穴からだった。

かがみとの抱擁は優一にはあまりに刺激的で、鼻の血管が興奮に耐え切れなかったらしい。

かがみは体を放すとポケットからティッシュを取り出し、
千切って丸めて優一の鼻に押し込んだ。
すると多くの女生徒を惑わす折角の可愛い顔も台無しになり、思わず笑いをもらした。

「笑わないでください」

座りこんだ優一は、ふてくされた様に顔を背ける。
肝心な時に興奮のあまり鼻血を出してしまう自分の不甲斐なさに苛立っていた。

そんな優一をかがみは正面から抱きすくめた。
一度やってしまえば二度目の躊躇いはなかった。

「好きだよ、ゆう君。大好き」

息を吹きかけるように耳許でささやくと、
優一の鼻に詰められたティッシュはたちまち真っ赤に染まり、
吸いきれなくなった血が溢れ出す。
優一には、はしゃぎまわりたい程嬉しい言葉だったけれど、
そんな元気もないほどに血が流れ出てしまった。



その日、家に帰ったかがみのセーラー服には気づかないうちにわずかな赤い染みができていた。
それを目敏いまつりが見つけた。

「つかさ……も、もしかしてかがみの制服のあの血は……」

驚き動揺しきっているせいで、指した指は小刻みに震え目は瞬きも忘れて見開かれている。

「今日、お姉ちゃんは優一くんに抱かれたんだよ」

つかさは今さら驚くこともなく、顔色一つ変えずに淡々と語った。

その事実は噂となってたちまちのうちに広まった。



翌日、久しぶりに勉強会が開催された。
かがみと優一の間に騒動が起こる前までは、
放課後の自習室で二人だけの勉強会が頻繁に開催されていた。
騒動が落ち着いて久しぶりに開催された勉強会は異様に参加者が多かった。

「あんたたちも勉強するなんて珍しいわね」

一団の先頭を切って廊下を歩いていたかがみが振り返りながら言った。

「そっかそっか、ごめんねかがみ。せっかくの二人きりの時間を邪魔しちゃってさ。
なんの勉強をしてるのかしらないけれど」

いやらしく顔を歪めたこなたが冷やかす。

「ごめんね、優一くん。私たちちょっと大きな課題の提出が明日だから……」

とつかさは申し訳なさそうに言う。

「そんなに大変な課題なんですか?」

優一はさらに後ろからついてくる見慣れぬ上級生に目を向けながら言った。

高良みゆきに日下部みさおと峯岸あやのも一緒なのだ。

「それじゃあ早速、」

と自習室に入るなり、こなたとみさおの二人はかがみの両隣の席を確保した。

「あんたたちの目当てはこれでしょ」

かがみは既にできあがっている自分のノートを机の上に放り出すと席を立ち、
優一の隣に移った。

「い、いいんですか?かがみ先輩」

椅子とりゲームに負けてさっきまで少しばかりいじけていた優一の顔が、
嬉しそうにほころぶ。

「いいのよ、どうせあいつらはまじめに勉強するつもりなんてないんだから」

「なんだよ、冷てぇなぁ柊は。友情よりも男をとるのか?」

「かがみも男ができるともう私たちには突っ込んでくれないんだね……」

「だって、もう突っ込まれてるからな」

ダメな友人二人はかがみが突っ込んでくれるのを期待して、
声のボリュームをあげて喋っていたというのに、
かがみは優一の指導に集中して気づかないのか振り向きもしない。

ダメな友人二人は寂しげにため息を漏らした。

「よし、一年生!辞書を取ってきてくれたまえ!」

みさおはおもむろに立ち上がって叫んだ。

「え?……僕ですか?」

驚いた様に顔をあげる優一。

「他に一年生はいないだろ?」

「日下部、そんなの自分で行ってこい!」

優一を使い走りにされるのがよほど気に障ったのか、かがみの口調はいつもの三倍厳しかった。

「ひぃっ……わ、悪ぃ」

敵意の籠ったかがみの目に睨まれて、みさおは椅子を跳ね退けるようにして立ち上がった。

「僕、大丈夫です。行ってきます!」

「そんなの行かなくてもいいわよ!」

かがみが止めるのも聞かず、優一は自習室を飛び出して図書室へと向かった。

「一体どういうつもりよ!」

「まぁまぁ、みんな柊ちゃんの話を聞きたいのよ」

憤慨するかがみをあやのがなだめる。

「私だって今までいじられてきたんだから、今度は柊ちゃんの番だと思うの」

言いながらあやのも好奇心の溢れる眼差しを向ける。

「したんでしょ?」

「お姉ちゃん、したって何したの?」

「しちゃったんだろ?吐いて楽になれよ」

「やっちゃったんでしょ?淫行」

五人は目を輝かせてかがみを見つめる。

ん?淫行?
こなたの言葉に解せない単語が混じっていることに気づいた。

「ちょっと待て、淫行ってなんだ?淫行って!私を変質者みたいに言うな!」

「変質者じゃないよ、犯罪者だよ?かがみ」

汚名を着せられまいとむきになるかがみに対して、こなたは冷静に言った。

「えぇっ!お姉ちゃん何か悪いことしたの?」

「そんなことしてない!いい加減なこと言うな、こなた!」

「つかさって今いくつ?」

「私?18だよ」

「じゃあ、かがみも18だよね。それでゆう君はいくつ?」

「今年で16だけど、今はまだ15才よ」

とかがみ。しっかりと誕生日も把握しているらしい。

「やっぱり淫行じゃん。かがみは未成年のいたいけな少年の純血を奪ったんでしょ?」

かがみは一瞬返事に悩んだ。
実のところここに集まった少女たちが期待しているような事は何もなかったのだから。
けれど、もうやっちゃったんだろう?みたいな期待の籠った目で見つめられると、
何もなかったと言い出せないでいた。

「埼玉県青少年健全育成条例の19条に依ると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金、ですね」

今まで黙っていたみゆきの眼鏡がキラリと不気味にひかる。

「ちょっ……みゆきまで何言ってるのよ!」

ひょっとしてこれは脅迫か?とかがみは思った。
一部始終を赤裸々に語らないと人生をめちゃくちゃにしてやると、脅されているのか?

「ひょっとして柊ちゃん、何もなかったの?」

そう発したあやのに一同の視線が集まり、
そしてまたかがみに注目がもどる。

観念してかがみはこくりと一度だけうなずいた。

「なんでだ?ひょっとして土壇場で怖じ気づいたのか?」

「お姉ちゃんにも、こわいものってあるんだね」

「かがみも、女の子だったんだね」

「大丈夫、アレを初めて見るとみんなそうなるものよ」

みんな既にかがみを臆病者だと決めてかかっている。
そう思われるのはいささか癪ではあったけれど、
真相を語りたいとも思わなかった。

「う、うるさいわね!あんたたちには関係ないでしょ!」

かがみは思わず立ち上がって力いっぱい叫んだ。
自習室の外にまで声が漏れそうな程。

その迫力に思わず静まり返った時に、そろっとドアが開き、
そこから優一が顔をのぞかせておそるおそる中の様子を伺った。

「あの~……今ってお取り込み中ですか?」

優一は申し訳なさそうに、かがみの逆鱗を刺激しないようにできるだけ静かに穏やかに言った。

「柊がでっかい声出すから彼氏がびびってるじゃないか」

「あんたたちが悪いんでしょ!」

そう言って、かがみは浮かしていた腰を椅子に落とした。

「僕は何の辞書を持ってくればいいんでしたっけ……?」

「なんだ、使えない彼氏だな。そう言うときはあるだけ全部の辞書をもってくるに決まってんだろ?」

「わかりました!すぐに行ってきます!」

と言い残してすぐに優一は踵を返して駆け出した。

「日下部、いい加減にしろよ」

「なんだ、やっぱり友達よりも彼氏が大事なのか?」

「でもさ、何か想像できないよね」

こなたはぼんやりと天井を見上げながらつぶやいた。

「どうしたの?」

「ゆう君ってさ、こんな怖いかがみにどうやって迫るのかな?と思って」

こなたはまだ怖い顔をしているかがみに目をやった。

「案外さ、『私を抱きなさいよ!』って柊のほうから迫るんじゃねぇの?」

「いやぁ、これでもかがみは純情な乙女だからね。
いざとなったら怖くなって怖じ気づくくらいだから。
二人きりの時にデレる、それがツンデレなのだよみさきち君」

「う~ん……そんな柊は想像できねぇ」

そんな勝手な妄想でかがみをいじって楽しんでいた二人の頭に鈍い衝撃が走る。
優一が走って持ち帰った辞書でかがみが二人の頭をぶった。
それは首の長さが縮んでしまいそうな程の重さだった。

「もうお前ら帰れよ!」



邪魔が入ったせいで久しぶりの勉強会は長引いた。
切りのいいところまでと熱中していたら、いつの間にか二人の姿しか残っていなかった。
端から勉強をするつもりのなかったその他大勢は、
二人が気づかないうちにそろりと自習室を抜け出して帰ったらしい。

先に靴を履き変えて当たり前のように待っていたかがみのところへ優一が小走りでやってきた。

「あの……先輩。その……もし、よければですけど……」

優一は何かを言おうとして躊躇っている。

ひょっとしたら何か嬉しいことでも言ってくれるのかとかがみは思わず期待して見つめ返してしまう。
それがさらに優一のプレッシャーとなることに気づいていない。

「家までお送りします」

なんだ、そんなことか。どんなすごいことを言われるのかとドキドキしていたのが馬鹿みたい。

「あ、でも、僕なんかが一緒でもたよりないですよね……」

そう言えば辺りは薄暗くなり始めていた。
この調子では最寄り駅から家まで歩く頃は完全に日が暮れていそうだった。
そして今日はつかさもいないから一人で歩くことになる。

優一は年下の癖に一丁前にかがみの身を案じているらしかった。

「好きにすればいいでしょ」

かがみは背を向けて先に歩きだす。
そうは言ったけれど、このまま優一が帰ってしまったらどうしようと、
内心不安でしかたがなかった。
別に夜道が恐いわけじゃない。
せっかく一緒に帰れる機会を自らふいにしてしまうことが恐かった。
それなら始めから素直に言えばいいのにと思うものの、
それができない自分がときどき嫌になるかがみ。

『一緒に帰りたい』と言うだけなのに、それが途方もなく難しいように感じられる。

小走りで距離を詰めた優一はかがみの隣に並んで歩いた。

「じゃあ、かがみ先輩の家まで着いていっちゃいますからね」

「いいわよ……別に」

そっけなく言って、ほころびそうになる顔の筋肉を引き締める。

電車を降りて、駅を出ても優一はかがみの隣を並んで歩こうとする。
かがみはそれが面白くなかった。

明るくて、人目が多いところならともかく。
外灯の少ない帰り道では通り過ぎる人の顔だってよく見えない。
おまけに田舎だから駅前とは言っても人影は少ない。

けれど優一はそんな不満に気づく様子もなく、
かがみの家を見られるのが楽しみなのか、
相変わらず幸せそうな顔をして隣を歩いている。

かがみが突然足を止めて立ち止まったことにも優一は気づかず、
そのまま何歩か歩いていってしまった。

「どうしたんですか?かがみ先輩」

ようやく気づくと立ち止まって振り返った。

かがみはつまらなさそうに地面を睨み付けている。
言葉を発する変わりに鞄を持っていない方の手を、斜め前に少し差し出した。

かがみが何か言うのかと思って待っていた優一だけれど、
かがみはその姿勢のまま動かなくなって、何も言わなかった。

「何かありましたか?」

優一は小走りでかがみのもとへ寄る。

かがみは何も言わず、鞄を持っていなかった方の手を優一に差し出す。

優一は意図がわからずかがみの顔色を覗き込もうとしたけれど、
逃げるように背けられてそれもできなかった。

「一緒に帰るんだったら……手くらい繋ぎなさいよ」

小さくて、それでいてあえて不機嫌を装ったような声でかがみは言った。

ひょっとしたらかがみの顔はゆで蛸の様に赤くなっていたかもしれないけれど、
今は暗いから誰にも気づかれる心配はなかった。

「気がつかなくてごめんなさい」

そう言って、優一はそっとかがみの手を握った。

「かがみ先輩の手、柔らかくて暖かくて好きです」

「ばっ……馬鹿じゃないの!」

恥ずかしげもなくよくそんな馬鹿な事が言えるものだと思いつつも、
かがみは嬉しかった。
にやけてしまっているに違いない顔を見られるのが恐くて、必死で隠していた。

かがみは家までの長くはない道のりをゆっくりゆっくりと歩いた。
2010.06.19 Sat l らき☆すた l COM(0) TB(0) l top ▲
久しぶりに書きました。らき☆すたの二次創作。
前回から10か月ぶりのかがみ様への恋文シリーズです。
夏コミに受かったけれど、新刊の予定がないので、
このシリーズをまとめて本にしようかなぁと思い、
続きを書きはじめました。

続きといいながら、
前回の海に行くとかいう話の続きはどうなったの?
と思われるかもしれません。
まぁ、それは夏コミまでになんとかします。

というか、このシリーズはどういう形で
終わらせるのが良いのかなぁ?と悩んでいます。

****************************************************

優一は廊下に張り出された試験の成績上位者の名前を探していた。
一年生であるはずの優一が、三年生の教室の並ぶ階の廊下で、
三年生の成績上位者のリストを見つめているのは、そこに愛しい人の名前を求めていたからだ。

その名前はすぐに見付かった。
リストの一番右橋、つまり一番のところに堂々とその名前が記されていた。

『柊かがみ』

「あれ?ゆう君、こんなところで何してるの?」

後ろから声をかけたのは、他ならぬ憧れのかがみ先輩。
出会ったのは決して偶然ではなく、
優一がリストの正面を陣どったまま衝撃でずっと動けなかったからだ。

「かがみ先輩、おめでとうございます!」

「おめでとうって、何のこと?」

言いながらかがみはリストに目をやり、自分の名前を見つけると優一の言葉の意味が理解できた。

「別にそんな大げさなことじゃないわよ、これくらい。
別に学校で一番になったからって志望校に合格できるわけじゃないんだから」

「でも、すごいです!」

そう言って、尊敬の眼差しで見つめられると嫌でもかがみの顔は赤くなる。

「そう言うゆう君はどうだったのよ?」

「僕は……ダメです。かがみ先輩みたいに頭よくないですから……」

ついさっきまで尊敬の眼差しできらきらと輝いていた優一の目から、
とたんに光が失われる。

「頭の良し悪しなんて関係ないわよ。毎日こつこつと勉強すればいいだけじゃない」

とかがみはこともなげに言う。

「でも……今更頑張ったってかがみ先輩みたいにはなれないですから……」

「何言ってるのよ?」

かがみは優一の言った言葉の意味が理解できないでいた。
『今更』とは、一体何に間に合わないというのだろうか。
けれどかがみは気に止めず深く考えなかった。

「勉強分からないんだったら教えてあげるわよ」

「でもかがみ先輩は受験で急がしいんじゃないんですか?……僕なんかが邪魔しちゃ悪いから……」

優一はいつになく弱気になっていた。

それはつい昨日の出来事が関係していた。
進路調査票。優一は、真剣に考えていなかった。
具体的な希望はなかったけれど、どうせ大学にいくならばかがみ先輩と同じところが良いと思った。
それを進路希望として提出したら担任は笑っていた。

「まぁ大きな目標を立てるのは良いと思うけれど、
第二志望以下にもっと現実的なところを考えておいた方がいいぞ」

と飽きれた様に言っていた。

「そんなに難しいんですか?」

そう聞いたら、担任は壁に張ってあった偏差値表を指さして教えた。
目標は、見上げる程高いところにあった。

「まぁ今からじゃあ死ぬ気で頑張っても現役合格は厳しいだろうな」

まるでかがみ先輩は雲の上の人だと言われたような気がした。

そんなことがあって、優一は今まで全く気にしていなかったかがみの学力が気になった。
そして三年生フロアの廊下に上位者の名前を見にきて、現実を目の当たりにしたのだった。

「いいから、放課後自習室で待ってなさい!」

かがみにそう命令されて、優一が拒否できるはずはなかった。


もともと利用者の少ない自習室は、放課後になると貸切り状態になる。
そこにあるのは優一とかがみの二人の姿だけ。
ここにもう少しかがみのできの悪い友人が誘われるはずだったのだが、
皆どういうわけか都合がつかなかったようだ。

放課後の静かな学校に二人きり、という初めての状況に優一は戸惑っていた。
二人で出かけたりすることは今までにあったけれど、
こうして二人きりになったことはなかった。

「そ、そそれで僕はどうしたら良いんですか……?」

「何緊張してるのよ。とりあえず座りなさい」

言われるままかがみの隣の席の椅子を引いた。

「じゃあまずはテスト見せて」

「でも……」

と優一は躊躇う。優一の正解率はかがみの不正解率に等しい。
そんな数字しかかかれていない答案用紙なのだ。

「ほら、恥しがってないで早く見せなさい。それとも、私にも見せられないの?」

かがみにだからこそ、見せたくないのだった。

案の定、答案用紙を眺めたかがみはしばらく言葉を失った。

「……ごめんなさい」

沈黙に耐えられなくなったのは優一の方だった。

「別に謝るようなことじゃないわよ。……それにしても酷いわね」

「ごめんなさい!」

「だから謝らなくていいって。とりあえず間違えたところからやり直すわよ」

そうは言っても、優一に理解させるには中学の勉強の復習にまで戻らないとならないほどであった。
そんな驚きがついかがみの口から飛び出してしまった。

「そんなのも分からないの?ゆう君それでよくこの学校に受かったわね」

悪意なんて微塵もなくて、ただ驚いただけにすぎない。

「ごめんなさい!」

優一は謝りながらこみ上げてくる涙を堪えていた。
優一にはまだ、愛しい先輩に罵られる悦びを理解できない。

結局あまりに復習する範囲が多くて、一教科しかテストのやりなおしができなかった。
優一が鞄に荷物を片付けているときに、かがみは思い出したように尋ねた。

「そう言えば、ゆう君って志望校とかもう決めたの?」

「まだ進路のこととかよくわからなくて……でもかがみ先輩と一緒のところに行きたいです!」

「バッ……何言ってるのよ!」

一瞬にして赤くなったかがみの顔は、あまり時間をおかずにもとに戻った。

「でも、進路なんてそんなことで決めるものじゃないわよ。
私と一緒のところなんて目指さなくていいから、
もっと将来のことをよく考えた方がいいわよ」

言われて優一はよく考えた。
かがみの言葉の意味をよく考えた。

ひょっとしてかがみ先輩は、大学まで僕と一緒にいるのが嫌なんだろうか?
大学生になってまでも僕みたいな馬鹿とはつき合いたくないってことなのだろうか?
そりゃそうだ。頭の良い大学に行けば、全国から頭のいい人がいっぱい集まってくるんだから。
将来……、やっぱり僕みたいな馬鹿が結婚相手になれるはずはないってことか。
頭が良くて便りになる大人の男が良いに違いない。
そう言えば、高学歴の女性ほど自分よりも学歴の低い相手を恋愛対象と見なさない、
なんて聞いたことがあるなぁ……。

つまり、僕はかがみ先輩には相応しくなってこと……
それが優一がよく考えて導き出した答えだった。

それからさらに一晩よく考えた結果、こうなった。

「かがみ先輩。僕と……僕と、別れてください!」

優一が突然別れ話を切り出した場所は放課後の学校の屋上。

かがみは突然のことでさっぱりと状況が理解できないでいた。
まるで、ご機嫌な気分で歩いていたら突然背後から後頭部を殴られたかのような驚きと衝撃だった。

「そ、そんな冗談面白くないわよ」

そうだ、きっとこれはこなた辺りが裏で糸を引いているつまらない冗談に違いないと思った。
いや、そう思いたかった。

「ごめんなさい!」

そう言って頭を下げたあと、
目を合わせることもなく逃げるように走りさっていった優一の顔が涙で濡れていたような気がしたが、
かがみにはそんなことを気に止める余裕はなかった。

なぜ優一が泣いているのか。そもそも泣きたいのは自分の方だとかがみは思っていた。

『待って!』
そう言うつもりだった口が開きっぱなしになっていることにかがみは気づかなかった。

なんの前触れもなく突然突きつけられた別れ話。
夢ではないかと疑いたくなってしまうほど唐突なできごと。
かがみにはさっぱりとわけがわからなかった。
けれど、さっきから何度も頭の中で反芻している優一の言葉の意味は理解できてしまった。
優一の心がかがみから離れていってしまうということだ。

屋上に一人取り残されてからしばらく硬直したままだったかがみは、
崩れるように床に座り込んだ。
その衝撃で堰を切ったように顔から出るもの全部を垂れ流しながら、
感情をぶちまけた。
幸いにして、その声をかき消すように雨が地面を激しく叩いていた。

制服が濡れるだとか、風邪をひくだとか、そんなことは気にならなかった。
どうせなら槍でも降ればいいのにと、自棄になっていた。

優一は可愛いだけの年下の頼りにならない男の子だとばかり思っていたのに、
しかたがないからつき合ってあげてるんだとばかり思っていたのに、
気がつけばかがみを泣かせるまでになっていたらしい。

もう顔も体も制服も濡れていないところなんてないくらい雨を浴びて、
体を支える気力も流れ出てしまったかがみは、
屋上のコンクリートの上に身を横たえてぼんやりと雨を降らせている灰色の空を見つめていた。

いつまで経っても戻ってこないかがみを心配したつかさが、
学校の屋上でボロ雑巾のようになって転がっているところを見つけて家に連れ帰った。

つかさは何があったのか聞こうとしても、かがみは多くを語らなかった。
ただ、「ゆう君に捨てられた」と言っただけだった。

『捨てられた』なんて、気位の高いかがみが絶対に口にしないであろう言葉。
つかさは大好きな姉をここまでぼろぼろにした優一に怒りを覚えた。

翌日かがみは学校を休んだ。
風邪はひかなかったけれど、学校に行く気力はなかった。
それに泥まみれになった制服をクリーニングに出す時間も必要だった。

朝、つかさは珍しく憤慨していた。
こなたはその様子を見て驚き戸惑っていた。
まるで富士山の大噴火を目の当たりにしているかのような驚きだった。

放課後になるとつかさは教室を飛び出していった。
一年の優一のクラスにずかずかと乗り込んで行くと、
無言で腕をつかみ強制的に連行した。

教室でおろおろしながら待っていたこなたのところへ、優一を連れたつかさが戻ってきた。
静かで邪魔の入らない所を求めて学校中をつれ回したけれど、
結局はみんなが帰った教室に戻ってきてしまった。

そこにいるだけで周囲の女子の視線を集めてしまう優一と一緒ではしかたのないことだった。
いつの間にか学校中の知るところとなっている優一の彼女の存在。
その妹が優一の手をとって歩いていてはますます好奇の視線が集まるというものだ。

つかさは誰もいなくなった教室で、自分の席に座った。
こなたはその後ろに。
優一は、上級生の席に座るということに大きな抵抗を感じていた。

「ゆう君も座ったら」

と言われて、優一は二人の足元に正座して座った。
優一は呼び出された理由に察しが着いているのか、神妙な様子だった。

これではどうみても下級生を呼び出していじめている図以外の何物でもない。

優一を椅子に座らせればよかったのだけれど、
つかさが慌てて椅子を取り払って床に座り込んだものだから、
こなたもそれに倣った。

「どうしてお姉ちゃんのこと嫌いになったりしたの?」

本当であれば昨日泥まみれになっていたかがみと同じように、
優一の身も心もずたぼろにしてやりたいくらいの怒りはあったはずなのに、
萎んでいる優一の顔を見ているとそんな感情は消えていった。

「かがみ先輩のことは大好きです!」

そう言った優一の眼差しは真剣そのものだった。
勢いがよかったのはそれだけで後は消えるような声でぼそぼそと語りはじめた。

「でも、僕じゃかがみ先輩とつりあわないんです……。
かがみ先輩はきれいだし、優しいし、頭も良いし、
決断力もあるし、自分の意見をしっかりと言う頼もしい人です。
でも僕なんか全然そんなことないし、頭も悪いし、うじうじしてるし、
先輩に怒られてばっかりだし……
僕なんて先輩に相応しくないんです」

「相応しくない、か」

それは双子の姉妹として比べられる事の多かったつかさにもわからない話ではなかった。

「でも、そんなことないんじゃないかな」

とつぶやくようにつかさは言った。
かがみがそんなによくできた完璧な人間でないことをつかさは知っている。

「そんなことあります!
僕は先輩に何もしてあげられないし……
僕なんかと一緒にいたら先輩がダメになってしまいます!」

優一は、否定的な意見に関しては自信をもって口にする。

「じゃあ優一くんは自分の良い所はどこだと思う?」

「良い所、ですか?」

「そう、これならお姉ちゃんにも負けないっていう所とか」

「そんなのありません!」

自信をもってそう断言した。

「そんなことはないんじゃないかな。お姉ちゃんが好きになってしまうくらいなんだから、
優一くんの良いところがあるはずだよ。
例えば、お姉ちゃんよりも料理が上手だとか。
素直で可愛いとか。いつも前向きで明るいとか。勇気があるとか」

「料理なんて誰でもやればできることじゃないですか!
素直とか前向きとかそんなの全然すごいことじゃないです!
それに勇気なんて僕にはありません!」

とつかさの言葉を力いっぱい否定する。

「そうかな。お姉ちゃんに好きだって告白できたのはすごい勇気だと思うよ。
私にはできそうにないもん。
それに、どれもお姉ちゃんにはないものだと思うよ。
だからお姉ちゃんは優一くんを好きになったんじゃないのかな。
優一くんは優一くんなんだから、お姉ちゃんと張り合わなくても良いと思うよ。
お互いに得意なことを頑張って成長しつづければいいんだと思う。
そうやって尊敬しあえる関係が大切なんじゃないかな」

「そ、そんなのつかさのキャラじゃないよ!」

とこなたが叫ぶ。

「えへへ……、実はこの間読んだ本に書いてあったんだ」

なんだ、そういうことかとこなたは安心する。
つかさまでもが自分をおいて大人の階段を駆け登っているんじゃないかと
少しばかり肝を冷やした。

「それで、つかさは今何を頑張って成長しつづけているの?」

と意地悪く問う。

「そ、それは……」

案の定つかさは答えられない。
本にそう書いてあったからといって、容易く実践できるものでもない。
それでこそつかさだとこなたは安心した。

これで優一は納得したのかと思いきや、全くそんなことはなかった。
どんな御託を並べてみたところで、優一の不満は一つだった。

「それじゃあどうしてかがみ先輩は僕のことを一度も好きだって言ってくれないんですか!」

そんなことをこの場の二人に言っても仕方のないことだと優一は思っていた。
でも思わず言ってしまった。

「ゆう君、だから言ったでしょ?ツンデレを理解しないとかがみとはつき合えないんだって」

「……何ですか?つんでれって……」

「かがみはね、素直じゃないんだよ。
好きだって思っていてもなかなか言わないんだよ。
ゆう君みたいに素直じゃないからね」

「でも……言ってくれなきゃかがみ先輩の気持ちがわからないです」

「確かめる方法ならあるよ」

とこなたは口元をいやらしくゆがめる。

「どうするんですか?」

その問に答えずに、こなたはつかさの隣に座る。
そしてつかさの目をまっすぐに見つめ、つかさの両肩を捕まえて名前を呼ぶ。
「つかさ……」

つかさの方はと言うと、いつもと異なるこなたの真剣な様子に戸惑う。
見つめられ続けるのに耐えられなくなって、きょろきょろと目が泳ぐ。

「どうしたの?こなちゃっ……」

教室の床の上に仰向けにされたつかさ。
その上にこなたが覆いかぶさりつかさの自由を奪う。

「つかさ、私のこと好きだよね?」

一瞬躊躇ったものの、つかさは一度だけ小さく首を縦に動かした。

「じゃあ、私に抱かれて」

そうしてこなたはつかさを抱きすくめる。
呆気にとられ顔を耳まで赤く染めながらも優一は目を逸せずに一部始終を見つめていた。

「こんな感じだよ」

とこなたはつかさを抱いたまま優一に目をやって言う。

「そそ、そんなの無理です!絶対に無理です!」

「無理じゃないよ。かがみはゆう君の言うことならなんでも聞くと思うよ。
なんだったらつかさで練習してみる?きっとかがみも同じ反応をするよ」

そう言って今まで抱いていたつかさの背中を押して優一のまえに突き出す。

「だだいじょうぶです、一人でできます!」

そう言い残して優一は逃げるように走りさった。


翌日、かがみはのこのこと学校に現れた。
放課後、優一にまた屋上に呼び出されてのこのこ現れた。
現れずにはいられなかった。
この間の話は何かの間違いだったのかもしれない、なんて思っていたのかもしれない。

「かがみ先輩、この間は勝手なことを言ってすみませんでした」

優一は腰を折って大きく頭を下げた。

「べっ、別にあんなの気にしてないわよ」

かがみはいつものように強がってみせる。

「僕が間違っていました。やっぱり僕はかがみ先輩が大好きです。
もう一度やり直してください」

優一は頭を下げたまま言った。
でもかがみは何も答えなかった。
答えられなかった。
どうしてか嬉しいはずなのに涙が勝手に溢れてきた。
優一は下を向いたままだから気づかれない。
でも声を出したら泣いているのがバレてしまうかもしれない。
それじゃあ優一のことが大好きで大好きでしかたがなくて泣いてしまっているようで、
格好わるい。
だからかがみは何も言わずに、涙が止まるのを待った。

かがみが手で涙を拭っていると、無言の不安に耐え切れなくなった優一が不意に顔を上げた。
かがみは思わず背を向けた。
まだ涙は止まりそうにない。

「あの……かがみ先輩?」

「うるさい!バカ!……少し待ってなさいよ」

かがみはどう返事をしようか悩んでいた。
答えは悩むまでもなかった。でも大切なのはどう振る舞うかだ。

『どうしてもって言うなら、もう一度つき合ってあげてもいいわよ』
なんて言うつもりだったのに、涙をみられてしまった後では不自然だ。
素直に言えればいいのになと思っても、それができないのがかがみ。

もう涙は乾いてしまった。
でもまだ返事の言葉が見付からない。
斯くなる上は胸の内に秘めた思いをみっともなくぶちまけてやろうかとも思った。

覚悟を決めて優一と向かい合うと、
かがみの言葉よりも先に優一が動いた。

離れて立っていた二人の距離を縮めた。
優一はかがみの目をまっすぐに見つめ、かがみの両肩を捕まえて名前を呼ぶ。
「かがみ先輩……」

「何よ……?」

かがみは逃げることなくまっすぐに優一の瞳を見つめ返してくる。

そこで優一は何かがおかしいことに気づいた。
次はどうすればいいんだったかな?
とこなたに教わった手順を思い出そうとする。
でもかがみに見つめられたまま冷静に考えられるなんてこと、優一にできるわけがない。
こんなに近くでかがみと見つめあうなんて未だ嘗てないこと。
心臓がばくばくとうるさい程に暴れ回って何も考えられない。
こんなことならつかさに練習させてもらえばよかったと後悔した。

そうだ、次はかがみ先輩に寝てもらうんだ、と手順を思い出したところで、
向き合って立っている状態からどうやってそれを成し遂げればいいのかわからなかった。

「えっと……かがみ先輩、座りませんか?」

そう言えば昨日は二人は床に座った状態から事を始めたはずだと、今更ながら気づく。

「いいわよ」

いぶかしく思いながらもかがみは屋上のコンクリートの上に腰をおろした。
すかさず優一はかがみの肩を掴んで、体を押す。

ごちんという鈍い音をたてて、かがみは後頭部を強かにぶつけた。
かがみは後頭部を両手で抑えながら転がって悶絶する。

「すみません、かがみ先輩!」

そう言っておろおろするしかない優一。

「どういうつもりよ!」

思わず睨みつけてしまったかがみ。
ひるみあがった優一の姿を見て、しまったと後悔する。

「……私にどうしてほしいのよ?」

「えっと……その、仰向けになってもらいたくて……」

もうぐだぐだだなとかがみは思った。
一体何を企んでいるのだろうか。大方こなた辺りにでも変な入れ知恵を去れたんだろうと思った。
ひょっとして押し倒そうとでもしていたのか?
この後体を求めてくるつもりでもいるのだろうか?
なんて思ったけれど、もうぐだぐだすぎる。

「あの……ごめんなさい。やっぱりいいです。どうしてもってわけじゃないし……」

かがみの憐れむような目に耐えられなくなって、前言を撤回しようとする。

「これで良いの?」

それでもかがみは言われるままコンクリートの上に仰向けになった。
晴れた空に輝く太陽がまぶしくて、思わず目を閉じる。

どうしよう……。
優一はそう思ったけれど、もう引き返せない。
こうなったら最後までやりとげるだけと、勇気をふりしぼる。

けれど、屋上で自分の前に横たわり目を閉じているかがみを見ているだけで気が変になりそうだ。

そのかがみの体の上を跨ぐなんて恐れ多いこと。
でもやらなければ先に進めない。
かがみのスカートの上辺りに、優一は膝立ちになってかがみを見下ろす。
でもかがみは目を閉じたまま優一を待っている。

優一の言うことならなんでも聞くはずだと昨日言っていたこなたの言葉を思い出した。
確かにかがみは一言も嫌だとは言わず、今優一の下にいる。
それが信じられなかった。でもこれが現実らしい。

優一は覚悟を決めて腰を折る。
上半身を腕で支える格好になると、かがみの顔がすぐ目の前にある。
かがみの息吹が聞こえそうな程すぐ近くに。

今まで目を閉じていたかがみは、突然まぶしい太陽の光が和らいだことを不思議に思ったのか、
不意に目を開けた。

かがみは優一が自分の体の上に四つ這いになっていることに気づいて驚き、そして動揺した。
まさか優一に限ってそんなことはないだろう、なんて思い軽々しく横になったものの、
まさかの展開になりつつある。

「かがみ先輩……」

「何よ……」

そう答えたかがみの息が顔にかかり、それだけで優一の心泊数はさらにあがる。

かがみの圧倒されそうな程強い視線が今は優一から逸されている。
だから優一も少しばかり気が楽だった。

「僕のこと……好きですか?」

かがみは躊躇いがちに小さく、けれども確かに首を縦に動かした。

「じゃあ、…………僕に抱かれてください」

かがみは何も答えずに目を閉じた。
ずるい。そう言われたら嫌とは言えない。
適当な理由をつけて先送りできないこともないけれど……。
初体験が学校の屋上?そんな状況に躊躇わないはずがない。
かがみは少し返事に悩んで、覚悟を決めた。

「好きにすればいいでしょ……」

優一は躊躇いながらそっとかがみの背中に手を回そうとする。

優一に触れられて、思わず体を硬直させるかがみ。
もはや動揺を隠そうとする余裕もない。

でも優一だってそんな事に気づける余裕なんてありはしない。

柔かいかがみの体に触れる程、かがみとの距離が少しずつ縮まる程、
かがみの体と触れ合う面積が増える程、
何も考えられなくなっていく。

優一はこれがはたして現実なのかと相変わらず疑っている。
憧れていたかがみを今抱きしめている。
布団を相手に抱きしめる予行演習という名の妄想は幾度となく繰り返してきた。
でもこれは夢じゃない。布団は決して優一の背に手を回し、
強くはないけれど決して弱くもない微妙な力加減で抱き返すようなことはしない。

頬と頬を触れ合わせると、えもいわれぬ柔さと体温が伝わってくる。
かがみの髪から立ち昇る香りが肺に吸い込まれる。
かがみの吐息が耳にかかる。

少し呼吸が早いのかな?ひょっとしてかがみ先輩もドキドキしているのかな?
僕なんかに抱かれてドキドキしているのかな?
いつも自身に満ちあふれて堂々としているかがみ先輩でも、
こんなことで緊張することがあるんだ。
そう思うと無性に嬉しくなる。

少しのすき間もないほどに体を触れ合わせていたい。
温もりと軟らかさと息吹を感じているだけで幸せになれた。

早鐘の様に高鳴っていた二人の心臓は次第に落ち着きを取り戻すと、
かがみは様子がおかしいことに気づいた。

優一が動かない。
抱きしめたまま身動き一つしない。
ひょっとして興奮の限界を超えた心臓が活動を停止したんじゃないかと一瞬思ってしまう程だったけれど、
静かな吐息は聞こえるからその心配はないらしい。
まさか寝てしまったのか?

「どうしたの?ゆう君」

「何がですか?」

優一は顔を離し、かがみの目を見つめていぶかしげに聞き返す。

「何がって、だって……」

『だって、ゆう君が何もしないから』と言おうとして止めた。
それじゃあまるで何かしてくれるのを催促をしているみたいじゃないかと思ったから。

「あ、あの……僕何か変なことしちゃいましたか?」

突然優一の顔は不安色に染まる。

かがみは優一が何も変なことをしようとしないことを疑問に思っていたのだけれど、
それはどうやら自分が勝手にはしたない想像を膨らませていただけなんだと気づいた。
そう思ったら恥ずかしくなった。

優一の言葉に他意はなかった。
文字どおり、かがみを抱いた。
それだけだった。

「馬鹿!なんでもないわよ!」

「かがみ先輩、大好きです」

そう言えば、そんな言葉を耳許でささやかれるのなんて、
生まれて初めてだった。
2010.06.09 Wed l らき☆すた l COM(0) TB(0) l top ▲
久しぶりに公開するらき☆すたの二次創作です。
海のネタです。
続きます。
海水浴シーズンが終わる前に書ければいいのですが…。

どうでもいいけれど、
ここ数年泳いでないなぁ…。
あぁ、泳げないわけじゃないですよ?

****************************************************
「かがみの水着、見たいんでしょぉ~?」

ニヤニヤとしながらこなたは言った。

「べ、別にそんなこと……」

俯きながらもそう答えた優一は、はっきりと否定しなかった。

「私がかがみを誘ってあげてもいいんだよ、一緒に海に行こうって」

海に誘う、ただそれだけの事を優一は言い出せないでいた。

「無理にとは言わないけど」

そう言って、立ち去ろうとしたこなたの袖を無言で掴み、引き止める優一。

「あの……本当に誘ってもらえるんですか?」

「もちろんだよ! ただ、ちょっと優くんが私に話を合わせてくれればね」


そんなわけで、柊姉妹に声がかかった。

「ねぇ、かがみも海いこうよ~。
優くんだって行きたいって言ってるんだし。
ね?」

と優一に同意を求めた。

「はい、僕も行きたいです。
かがみ先輩も一緒に行きましょうよ!」

う~ん、と考え込むかがみ。
ちらりと目をあげると瞳をきらきら輝かせた優一がかがみをじっと見つめている。

かがみ先輩が一緒に行ってくれなかったら僕寂しいです、とでも言いたげな瞳だ。

「わかったわよ、行ってあげるわよ」

海に行くことに関してはやぶさかではないかがみであったけれど、
水着を着ることに少しばかりの懸念事項があったのだ。
特に、今回は今までなかった男子の目というものがあるのだから。
かがみに憧れている可愛い男の子の視線が。
故に、かがみは念入りにかつ完璧な準備をする必要があるのだ。


「ところで、海っていつ行くのか、こなたから聞いてる?」

同意したものの、日時も場所も聞かされていなかったことを今更ながら思い出したかがみ。

「8月16日だそうですよ」

そう優一が答えるのを聞いて、いぶかしく思うかがみ。

「場所はどこって言っていた?」

「有明だって聞いたんですけれど……そんなところに海水浴場ってあったんですね」

「海……ねぇ。確かに海に近いところだけれど……。
あいつ海水浴にいくつもりなんてないわよ」

「え? 海水浴じゃなかったら、何をしにいくんですか?」

優一は何も知らなかったのだ。


「泉先輩! 酷いじゃないですか、騙すなんて!」

優一はこなたに詰め寄った。

「騙してなんていないよ。ちゃんと行くでしょ、海」

「確かに海の近くですけど、普通そんな言い方しませんよ!
ビッグサイトに行くのに、『海に行く』なんて!
約束が違うじゃないですか!!」

「じゃあどうするの?
かがみに告げ口でもする?
かがみの水着姿を見るために海に行くはずだったのに、騙された、って」

「うぐぅ……」

言い返せず、悔しそうに唇を噛む優一。

「でも、かがみの水着姿は、
優くんにとって衝撃的な物になるかもしれないよ」

「どうしてですか?」

訝しげに首をかしげる優一。

「ぷにぷにでぷよぷよだからだよ~」

「ぷよぷよでぷにぷになんですか?」

そんなことを言われたって、さっぱりと理解できるはずもない。

「世の中にはね、知らない方が幸せなこともあるのさ」

こなたは諭すように言った。

「でも、どうせ優くんはかがみを海にさそう勇気もないんでしょ?
こみけにつき合ってくれたら、
今度こそ本当に私が誘ってあげてもいいんだけどな~」

「今度こそ……嘘じゃないですよね?」

優一は、人を疑うということを覚えた。

「いいんだよ、別に信じなくても。優くんが自分でかがみを誘えるならさ」

「うぐぅ……」

結局、悔しそうに唸るしかない優一であった。


「つかさ、お菓子いらない?」

かがみは部屋に隠し持っていたお菓子を両手に抱えてつかさの部屋を訪れた。

「何、お菓子? 要らないんだったら私ももらってあげるよ」

ちょうど廊下を通りかかった姉のまつりも、おいしそうな匂いを嗅ぎつけて
つかさの部屋に顔をのぞかせた。

「よくこんなにお菓子を溜め込んでたね~。だから太るんだよ」

と茶化すまつり。

「でも、本当にもらっちゃっても良いの?
この間は私が触っただけでもすごい顔して怒ってたのに……?」

それは数日前につかさが夜遅くまでかがみの部屋で勉強をしていた日のこと。
『お姉ちゃん、お腹空かない?』言いながら、隠してあったお菓子に手を伸ばしたつかさ。
その刹那、かがみは鬼のような形相で本能を剥き出しにし唸り声をあげたのだ。

「また懲りずにダイエットでもするの?」

早速スナック菓子の袋を空けて頬張りながら言ったのはまつり。

かがみはおいしそうに見せつけてくれる姉から目を逸した。

「そ、そうよ!」

「ふ~ん……。男だな?」

まつりは冗談のつもりだった。
『そんなんじゃねぇよ!』と向きになって力いっぱい否定するかがみの反応を期待していたのだ。

ところがだ。

「別になんだっていいでしょ……」

恥ずかしそうに頬をほんのりと赤く染めたかがみは、うつむき加減に答えた。
いつものように腹の底から力いっぱい絞り出したような声ではない。
まさにはじらう乙女、という表現が似合いそうなリアクション。

「え……、本気で?」

その予想外の反応に、一瞬姉は硬直してしまった。

まつりの心の中には実に様々な感情が渦巻いていた。
妹に先を越されたという焦りと敗北感。
そして妹に不幸が訪れるようにと切に願う凶々しい感情。

「別れちまえー!」

正気を取り戻した瞬間、まつりはそう叫んだ。

「な、なんでよ?」

「かがみ、そんな男ろくな奴じゃないよ!
かがみのことが本当に好きだったらちょっとくらい太っていたって嫌いになるわけがないよ!
どうせ体が目当てなんだよ!
だからそんな奴のことなんて忘れて、これを食え!」

言いながら無理矢理お菓子を口にねじこもうとする。

「そんなんじゃないわよ!
どうせお姉ちゃんにはわかんないよ!」

その言葉は、膝を付きその場に崩れ落ちてしまう程の破壊力があった。
まつりは両手を床に付いてがっくりとうなだれた。

「まさか……かがみはもう……女になったの?」

最悪の返事を覚悟しながらもおそるおそる問うまつり。
結局は、関係がどこまで進んでいるのかが気になってしかたがないのだ。

『女になる』と言う言葉に隠された真意を、かがみは理解できた。

「し、知らないわよ! 関係ないでしょ」

耳まで真っ赤に染めて叫んだかがみ。

まつりがふと顔をあげると、おろおろとしているつかさが視界に入った。
そして嫌な考えが浮かんできた。

「もしかして……つかさも?」

このおっとりのほほんとした一見男とは無縁に見える妹ではあるが、
この時ばかりは何故だかその裏には
男を手玉にとる魔性の人格が潜んでいるように思えてならなかった。
この天然ですら計算であるように、まつりには思えたのだ。

「え? 何が?」

ただ単に状況を飲み込めていないが故に発せられた言葉の様に思えるのだが、
今のまつりにはとぼけているようにしか聞こえなかった。

こうして、かがみは来るべきその日に備えて、減量に励んだ。


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全然関係ないけれど、夏コミ参加します。
二日目、東モ59aです。
是非是非足を運んでください。
2009.08.08 Sat l らき☆すた l COM(0) TB(0) l top ▲
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